ランピーの感覚からいうと、随分前に恋人同士になって。けれど、ストイックなのか、キスまでしかさせてくれないモール。そういう雰囲気になっても、するりと交わし涼やかに、何も知りませんみたいな顔をする。
別にモールを好きになったとき、肉欲が最優先だったわけじゃない。どこか危うくて独占欲をかきたてる、綺麗なモールを気持ちの範囲で独占したかっただけ。言葉で縛りたかっただけ。そういう意味では願いが叶ったのだから、文句があるはずもない。
という言い訳を、ランピーにしては長い間、自分に訴え続けてきた。
本音を言えば、それはまあ健全な男子であるからして、不健全な性交でも出来るならしたい、大いにしたい。一般的に、依存とまではいかなくても性欲は多い方だと自己分析しているから、特に。
というような内容を、もっとマイルドにして、モールと話し合ってみるべきかもしれない。なるべくお医者さん口調にならないよう努めながら、と思っていた。ドクハラなんて言われた日には、立ち直れない気がしたから。
それなのに。ランピーのそんな葛藤を無視して、モールは今医者であることを強要する。
先生
モールの秘めやかな声が、甘く呼ぶ。先生、と。
「今、お付き合いしている方に、幻滅されるのが怖くて」
“今お付き合いしている方”を目の前に、アルコール臭い深夜の診療所、ふるりと睫を震わせるモールの顔は真っ赤。
個人経営だから問題はないけれど。医者としての本質を疑われそうな現状に、ランピーは軽い眩暈を起こした。現実逃避だ。こんなに硬い診療所のベッドじゃなくて、柔らかいベッドならいくらでも用意するとかそういう問題じゃない。
「モール、これは」
「診察料払う、から。保険利くか、わからないけれど」
書類整理が終わって、帰ろうとした矢先の事。帰り際にモールが診療所を訪れる事はよくあるけれど、今回は本当に医者としてランピーの意見を聞きに来たらしい。
行き成りベッドに座って、細い足を強調するような細身のジーンズと下着を脱いでしまったモールに、全理性を総動員して叱咤しようと思ったけれど。それならば、叱る必要はない、のかもしれない。
ランピーは一旦気持ちを抑え、ただでさえ長いニットの裾をぎゅうぎゅう伸ばすモールに向き合った。
「…どうしました?診察外なんで、手短に」
少し、皮肉っぽくなったけれど。ランピーも実際、それどころではないから仕方ない。普段から日に当らないモールの白いふくらはぎに、噛み付きたくて仕方ないから。
「私は…両性で、お付き合いしている、方が、ゲイだとしたら」
嫌われて、しまうかもしれない
けれど。モールの言葉に、恋人としてではなく。パチンと、お医者さんスイッチが入ったのだから、笑えてしまう。
恋人の抱えていた不安を、医者として受け止めてしまった事は。少し、問題かもしれないけれど。仕方ない、理系は未知への好奇心に抗えない。
普通なら、小さい頃に取ってしまうけれど。
平均身長以上を誇るモールには、少々不釣合いなペニス。包茎ではなかった事の方が驚きなくらい、小さくてへたりとしたそれ。思い切りのいいモールは、何かで知識を得て、びりっとやってしまったのかもしれない。想像しただけで痛い。
「精通は?」
そんな事を考えているとは、おくびにも出さずに。ランピーは凝視していたペニスから、視線を外した。睾丸は一応あるように見える、けれど使い物にはならないだろうと考えながら。
レントゲン取りたい取っておうちに持って帰りたい!なんて、絶対顔に出すものか。どちらにしろ、見えないけれど。
「せ…?!ぁ、ない!ない、です」
深夜の診療所、誰も入ってこないだろう。それでもなんとなく、ベッドのカーテンを引いて。ほんのり薄暗い中での問診。ニットの裾をぐいぐい伸ばしていたモールの手は今、ランピーにやんわりどけられて、ハイネック部分をぐいぐい伸ばしている。おかげでサングラスがずり落ちそう。
相当恥ずかしいのだろう。声は上擦り震えているし、何故か口調も改まっている。
「一度も?勃起もしませんか」
けれどそれは、ランピーがお医者さん口調だからだろう。
「ぼ…ッ!!…ぁの、たまに、だけ」
神経は、通っている。もしかしたら、その辺の兼ね合いがあったのかもしれない。
けれどこれは、確かめてみてからでないと、わからないので。やましい気持ちではなく、純粋に医者としての、使命なので。
「触診しますので、痛かったら言ってください」
驚いて足を閉じようとするモールをあやすように、一瞬だけ鼻先にキスをして。ランピーは自分に感謝した、医者になってくれてありがとう俺。
「ん…」
慎重に。ちいさな亀頭に触れた瞬間、モールの体が震えた。へたりと柔らかいペニスは、それでもさほど変化はない。ただ少し、芯が入った程度。きちんと尿道もついているのに、不思議なものだと思う。
「そこ、は…あまり」
ぐりぐりと尿道に指を擦り付けると、眉を潜めたモールが不満を訴える。痛いというよりは、不愉快そうな顔。
「痛いですか」
「いえ、その…もどかしい、というか」
中途半端な快感しか、得られないという事か。…慣らせば、いけるかも。
「ふぇ?!ぁ、ま…んあ、せんせ、まッ!!」
思ってしまったら、駄目だった。気付けばぱくりと、口に含んでしまったペニス。小さくて可愛い、口の中でぴんと跳ねるし、睾丸まで入ってしまう。
睾丸ごと、下から上に舐め上げる。何度やっても、ペニスは少しふっくらした程度。けれどランピーの舌は、異物を感じていた。
睾丸の下に、ぷくりと膨れ上がった突起。クリトリスが、こんなところに埋まっているなんて。
「ひぃんッ!ゃ、だめ、らんぴ、だめ!」
こりこりと舌先で舐ると、クリトリスは確実に快感を得られるようだ。
体付きは男性になってしまったのに、性器は女性の方が発達したなんて。モールが悩むわけだ。驚異的なスルースキルも、今まで散々あっただろう色事のごたごたに巻き込まれた上での経験なのかもしれない。
そう考えると、ランピーはあまり面白くなかった。
「女性経験は、聞かなくてもわかっ…りました。男性経験は?」
これはもう、折角医者として扱われているうちに、聞いてしまった方がいいだろうと思う。そんな自分を、ランピーはずるいと思うけれど。
期待、するではないか。お互いわりといい年で、当然妥協している問題だけれど。可能性があるならば、初めての男になりたいと思っても仕方ない。
「ッ…あると、思います、か」
いつの間にか落ちてしまったサングラス。薄らと目を開くモールのそれから、一筋涙が零れたとしても。聞いてしまったものは、仕方がない。
やだやだ泣かないでモールごめんなさい
何時もの通り言えばいいと思う。顔中にキスをして、ぎゅっと抱きしめて。けれどランピーがした事は、そっと瞼に唇を落とした、それだけで。
「医師として、最後の質問です。生理は、きますか」
心から思った。医師として、最後の質問。
多分、普段通りでは中々聞けない事。勇気を出してこの場を作ってくれたモールに、感謝すら覚える。どんなに泣かせてしまっても、これだけは確認しておきたい。
「一年に、一度程度…その、幻滅、するでしょうか。わたし、はッ今お付き合いしている方、の、こどもを」
産みたいんです
なんて勇気ある言葉だろうと思う。
未完全な体は、もし子供が出来たとしても危うい。確実に、帝王切開になるだろう。受精する可能性も、理論上は極めて低い。その辺りは確り調べて、可能性を確認しなければいけないけれど。
恋人としては。
「喜んで!!」
今度こそ抱きしめて、顔中にキスをする。これが一番正しい行動で。ぱしんと平手が飛んでも、ごめんなさいで終わり。
「怖かった!のにッずっと、怖かっッ」
「ごめんね?モールごめん、でも今しか聞けないと思って。嬉しい凄い嬉しい、俺モールだけの産婦人科医になるね」
怒った顔で、ぽろぽろと涙を零すモールは、本当に怖かったのだろう。ゲイと思われても仕方ないとして、ほんの少し愛を疑われたようで、それが嫌で。ほんの少し、意地悪をしすぎたとも思う。
可愛くて仕方がないんだ、大好きでどうしようもないほど愛していて、些細な事でも頭がおかしくなりそうで。だからランピーはもう、待たない。
「ねえモール、ここで頂戴。俺もう耐えらんない、あげるって言って。先生を強姦魔にしないで」
きつくてたまらなかったズボンを、焦ってもたつきながらくつろげて。馬鹿みたいに膨張したペニスを、両性器に擦り付ける。涙の残った睫を伏せたモールは、また恥ずかしげにニットを上げたけれど。隠す事は許さない、唇はキスするための場所だから。
答えを聞かせてくれる場所だから。
強引に引き摺り下ろした瞬間、モールは観念したようにまた、目を開いた。
「先生になら、あげる」
結局半分しか立ち上がらなかったペニスの代わりに、膣は随分と活発な動きをする。初めてできつくはあるけれど、けして未熟ではなかった。割れ目に舌を這わせるたび、とろとろと液が滴り落ちてくる。
「あっあっ、らんぴの、ん、した…っらんぴの、が、んぁ…わた、しの」
ペニスを口に含んだときなど、比べ物にならないほどの反応。うわ言のように呟き続けるモールは、常に小刻みに震え続けていた。耐えていたのは、ランピーだけではなかった…それがわかって、またどくりとペニスに血が通う。
「ッ…モール、クリトリス、隠さないで。見せて、吸ってあげる」
けれど、まだ。十分にモールをとろとろにして、一番美味しいところを貰わないと。意地悪したお詫びにならないから。告げれば、恐る恐る伸びてきた指が、小さな睾丸を持ち上げて。くちゅりと、それだけで濡れてしまった指先に驚き、一瞬離れそうになる。けれどそれは許さない。
「ひううぅぅッ!」
ちゅうと。先ほどのように、舌先で弄るだけではなく。思い切り吸い付くと、モールの綺麗な足がぴんと伸びた。伸びて、顎にかかった生温い液。とても敏感。
「あは、モール射精した。処女まんこで。エロ可愛い」
どろどろになってしまった指を舐める。口に突っ込んで、更にどろどろになるくらい。モールは何度も首を振って、硬い枕に夕焼け色の髪が絡まる。またぽろぽろと流れ出した涙が、真っ赤な頬を伝って綺麗。
「モール大丈夫だよ、俺もエロいよ。ほらこれ、もうすぐモールの処女奪って、受精すんの。楽しみすぎてやばい」
余計汚れてしまった手に、完全に勃起したペニスを押し付ける。爪を立てられるかもと危惧するくらいびくついた手は、それでもゆっくりと形を確かめるように、竿を擦って。それから亀頭へ。
ぷくりと膨れ上がった先走りが、またモールの手を汚した。
「これ、せいし?わたしの中に、だす」
見えないモールは何度も、何度も何度も精子に触れる。執拗なくらい、あまりされると失敗しそうで怖い。一瞬で亀頭を汚されてしまって、ランピーから苦笑が漏れる。
「そう、子宮が満杯になるまで出してあげる。入り口まで、連れて行ってあげて」
見えないモールは、入る瞬間など見えないから。怖がらせないように、自分で宛がうよう促した。…半分は、自分の欲望に忠実なだけ、だけれど。
モールは疑う事もなく、自ら少し動いて亀頭を当てる。膣口に当てて手を離し、きゅっと目を閉じる。だからランピーはもう一度、モールの手を取って膣口に添えた。
「入るの、手で感じて。ここいっぱい広がっちゃうの、俺が広げるの感じて」
亀頭が飲み込まれるまでに、少し時間がかかった。焦らないよう、ゆっくりと…意識しすぎたかもしれない。モールも少し力んでしまって、カシリと歯を噛み締めていたから、とてもきつくて。
それでも、少しだけ漂った血の匂いに、息を吐いたのはモールが先だった。
「らん…ッはじめて、らんぴ…ぃううッ?!」
痛かっただろう。それなのに、こんなに嬉しげな声を出されて、焦るなという方が間違っている。
ぎゅうと半分、押し込んだところで一旦我に返り、謝るようにキスをする。唇に、何度も。
「ごめ、ちょっと待つ」
きつい。半分だけで、射精してしまいたいくらい。初めて受け入れる場所は、まだ柔らかさもないけれど。何度も突き入れて、解していけば。きっと柔らかく痙攣し、精子を吐き出させるための極上の器になる。自分だけの…
「ぃいッ!らんぴ、まだ、いぁ!」
「ごめん、止まらなッ!ごめん!」
想像しただけで、腰が動いてしまった。セックス覚えたての盛りでもあるまいし、これくらい我慢できると思っていたのに。
「きつくて、きもちい…ッごめん、モール」
気持ちいいというより、少し痛いほどきつい。それでもモールの中に入っていると思うだけで、もっと奥にと思ってしまう。浅い抜き差しが、どんどん激しくなっていく。ぐちゅりと、十分に溢れさせた液が飛び散った。
モールの胸が、浅く上下する。感じているわけではないだろう、それでもべたべたの手が腰を掴むランピーの手に重なって。
「らんぴ、きもち、い…うれし、ッい」
ああもう、馬鹿
「はっあ!!ゃ、ごつご、いたッ…ぁ?!やぅ、ゃ、ゃあん!!」
ぺしりと、モールの可愛らしいペニスが腹を打つ。何度も、ぺしり、ぺしと。子宮口を突いて、更にその奥までと強請る。慣れていない体は痛いだけで、セックスが嫌いになったらどうしようと不安になるけれど。
「モール、もー…ッ好き、俺の子供、産んで、俺のじゃないと、駄目、だからね」
それ以上に、ありえないほどの独占欲と支配欲が、一気に膨らんでしまった。
顔を真っ赤にして、痛みに耐えるモール。それでも、時たま零れる喘ぎは、けして痛みだけではないのだろう。
「ぁ、ッ…でる、で…ッつ」
まだ、子宮を広げていないのに。初めてなのに。もっと優しく出来ればいいのに。思いながら、それでも勢いよく吐き出した精子。ふいぃとモールが、不思議な声を上げて腕に爪を立てる。
「だめ、出ちゃ…腰、だめっ」
多分今回は、奥まで届かなかっただろう。亀頭にかき出され、射精した傍から垂れ流れてしまった精子。それだけ、腰が止まらない。
出しながら腰を振るなんて、初めてかもしれない
ぐちゃりと流れ出た精子が糸を引く、それをどこか冷静な頭で眺めて。ランピーはまた苦笑をもらした。
「いいの、またすぐ出るから。モールの子宮口、こじ開けてやる」
折角出された精子が、すぐに流れてしまって不安だったのだろう。モールの耳元で、告げれは安心したようなため息が聞えて。
これも駄目、馬鹿
「あんっ!あ?!」
また激しくなった挿入に、それでもモールはもう、痛そうな顔ではなく。どころか、少し微笑んですらいるのだから。子供、案外早く出来るかも…思わずにはいられなかった。
「診察室のマットレス、どこやったのよ!」
看護婦さんが、目を吊り上げて怒鳴る。けれどランピーは、いつものように怯える素振りなど見せない。
「診察時間外に来た患者が、流血したんだ」
嘘じゃないもん
「だからって、マットレスまで…すぐ手配しなきゃ。あと、レントゲン室使ったら片付けて!!」
「それはごめん、今片付ける。早朝来た患者に使ったんだ」
これはちょっと嘘、ごめん
ブツブツと文句を言うギグルスに、心の中で手を合わせ。取れたてのレントゲンを光に当てる。
モールは気付かないから、寝室の壁に飾ろう…そんな不届きな事を、考えながら。
とりあえず回収したシーツとマットレスは、モールがどこかに持っていってしまったから。きっとちゃんと、保存してあると思います。
END
|