スプレンディドは、何もかもが規格外すぎる。サイズではない、持久力と運動量が。春先とかが危険、増え始めるリア充に当てられて、やる気が漲るから。けれど別に、それ以外は安全というわけでもない。
性事情についての話だ。
ハンディの記憶では何度思い返してみても、スプレンディドとお付き合いしましょうと言葉を交わした記憶がない。セフレですらない、一度そうなのかと聞いたら烈火のごとく怒ったから。
兎に角ハンディの知らないところで、いつの間にかスプレンディドはハンディの恋人になっていたらしい。それもセックス込みのお付き合い。同性同士で…などとは、流石に言わないけれど。さも当然のように好きにされ、さも当然のように突っ込まれてはたまったものではない。
「ハンディ今日はとてもいい天気だけど、個人的には室内に篭ってセックスしたい気分!ドロドロになるまでハンディを犯し尽くしたい!アナル閉じなくなるくらい突っ込んで精子ぶちまけたい!ハンディも気持ちいいし、別にいいよね?」
こんな事を言われて、いいですよ、答える奴の顔が見てみ…某盲目さんなら言うかもしれないけれど!最低でもハンディには口が裂けても言えなかった、言えるわけがなかった。
どちらにしろスプレンディドにとっては、君の意見なんて関係ないけどね、の一言で終わってしまう。だからいつか、耐えられなくなったとき、号泣しながら言ってやろうと思う。
毎回死にそうなんだ俺、マジで、本気で!!
スプレンディドのサイズは、兎に角長い。串刺し、という言葉が一番しっくりくるほどに。セイフティセックスを蹴り倒すかのように常に生身で入ってくるそれは、ありえない場所まで侵入し、腹を突き上げた。そのままの意味で腸が捩れそうになる。自分の腹が変形する様など、スプレンディドとそういう関係になってから初めて見てしまった。
うっかり某盲目さんと、あるある話をしてしまうほどに衝撃的な光景。ランピーは、兎に角サイズが規格外で、精子の量も多くて、回数も多い…と、恍惚とした顔で言われたときは、勿論同意などしなかったけれど。
挿入の時の、火が付きそうなほど早い動きはきっと、スプレンディドの方が凄い。若さ、だけではすまないほど。捲れる、捲れて出る…危惧する事なんて、日常茶飯事。本気で危機感を感じて言っているのに、スプレンディドはまた、ハンディやらしい、の一言で。
俺何時か絶対、死因これになる日が来る。死因、腹上死…いや、うっかり内臓が出たため。恥ずかしすぎて、誰にも言えないではないか。ラッセルに泣きつく事すら出来ない。
それでも。
それでもだ。ハンディにとっては忌々しい事に、死を目前に控えたセックスは多量の脳内麻薬を分泌し、ハンディの身体を完全に作り変えてしまった。身体曰く、痛いまま逝くよりは、気持ちいいままイッた方がいいと。
多分、完全に。ハンディの身体はもう、スプレンディドでなければ快感を得る事が出来ない。あらゆる意味で究極の快感というものを、植え付けられてしまった。
スプレンディドは、身体を密着させる結合が好きだ。兎に角抱きしめやすいよう、あらゆる場所がぴたりとくっつくよう、そんな甘い雰囲気を好む。
ハンディは抱きしめられないから、じゃないよ別に!
とよく言うから、多分そういう事なのだろう。
顔が見える見えないは、スプレンディドにとっては特に必要な条件ではない。如何にぴたりと張り付くか、皮膚と皮膚が触れ合うかこそ問題だからだ。一番手軽なのは、背面。抱え込むように、腕に閉じ込めるように突き上げてくる。これがまた、最も奥まで入る体位なものだから堪らない。
吐く吐く吐く!
正常な意識があるのなら、ハンディは間違いなくその言葉を連呼しただろう。腕がないから、自分の身体を支える事が出来ない。頭は常に下向きで、腹を滅多やたらに突き上げられるのだから当然だ。
死因、汚物を喉に詰まらせての窒息死。そんな言葉が頭を過ぎっても、仕方がない。
だからこそ、ここはプライドを捨て、言うしかないではないか。顔が見たいなどという、乙女チックかつスプレンディドが手放しで喜ぶ台詞を。愛に飢えたスプレンディドは、必ず望みを叶えてくれる。
私は、見えないけれど。向き合っての方が、いけない気持ちになる。見られている事を、強く意識する。と、某盲目さんが言うものだから、実際のところ顔を見られながらの行為は、羞恥以外の何者でもないけれど。
今まで、というほど長い関係ではないにしろ。兎に角今までお互いに妥協と協力を惜しまなかった結果、最終形態にして最強体位が決定された。
対面座位。
背面座位も可ではあるけれど、その場合スプレンディドが満足するほど肌が触れ合わない。胡坐をかいたスプレンディドにすっぽりと抱きしめられ、ハンディは脇の下あたりに腕を通す。腕は回りきらないけれど、引っかかりくらいにはなる。スプレンディドにとっては、ハンディが抱きついてくれる素晴らしい体位。ハンディにとっては、スプレンディドが妥協する中で最も死から遠い体位。
スプレンディドは不思議な事に、ハンディが自ら腰を振る姿を観賞する趣味はない。ランピーは、好きだけれど…某盲目さんが言っても、ないものはない。もしかしたらあるのかもしれないけれど…いや、ない。そんな余裕はない。普段は随分と見た目や行動を気にするくせに、セックスは泥臭いほど徹底的に快感だけを求めるのだから、あるわけがない。
頭から足の先まで、余すところなくドロドロになりたい。何も考えられなくなるくらい、アホみたいに盛っていたい。そう宣言するほどだから、チラリズムを堪能するだとか、焦らしプレイを楽しむだとかいう一種のダンディズムは、スプレンディドの持ち合わせないものだった。言葉責めは好んで行う、けれど焦らしはしないでどんどん先に進むのだから、ただ言ってみたいだけというやつだろう。
行為が終わる頃には、唾液と汗と精液でお互いどろどろになっている。噛み痕と引っかき傷も相当。噛み痕は主にスプレンディドの首、引っかき傷は主にハンディの腰や尻。挿入する側の嗜みとして、スプレンディドはちゃんと爪を切り揃えているけれど。それでも引っかき傷が残るのだから、どれだけセックスが激しいかが伺えるのではないか。
行為の後のシャワーは、だから染みる染みると大騒ぎだ。ハンディの意識がはっきりしている時限定で、滅多にない事だけれど。
某盲目さんは言う、シャワーの時の甘い雰囲気がとても好き。
勿論そんなものはない、始まりも唐突なら終わりも唐突。満足したら終わり、とてもわかりやすい。ただスプレンディドがはしゃぐだけだ。気持ちよかった、最高だったと、聞きようによっては甘い言葉を吐くけれど。笑み崩れるほどに笑顔で元気に言われてしまっては、むず痒い気持ちにはならないのが現状。ハンディは疲れきっているから、良かったなの一言ですむ。
体内に残ったままの精子をかき出され、それ以上があるわけでもなく。その頃には、兎に角泥のように眠りたい、がお互いの脳内を支配する。泥のように眠って、起きたら朝ご飯を確り食べて。きっちり三大欲を満たしたら、さあ今日も元気に働きましょう。
最も原始的でシンプル。ハンディには、性事情をそう解釈する以外の選択がない。
「だから、あんたの言う事よくわかんねぇ」
ストローをカシカシ噛みながらそう締めくくったハンディに、モールは首を傾げてしまう。
「好きとか愛してるとか、別に言わないし。やるだけやって寝るだけだし。それの何処に愛情を感じるんだ?」
そう言って、気まずそうに視線を外すハンディを、モールは見る事が出来ないけれど。何処か不満げである事はわかる、それこそが愛情なのではないかと思う。
スプレンディドにしてもそうだ、自尊心の強い彼を、愛に飢えていると表現するくらいだから、相当態度に出ているのだろう。話を聞いただけでもわかってしまうくらい。
逆に考えてみよう、君に愛されたいと思っている、願っている…そういえるのではないか?
勿論モールは、そんな下世話な事など言わない。無意識にでも気付いているからこそ、ハンディは危険な性交を、ある意味では容認している。妥協と協力なくして成り立たない行為なのだから、容認されていないはずがない。
だからこそ、モールは思う。モールの話しを聞いて、ハンディは何処か羨ましげな雰囲気を醸し出したけれど。
「千差万別、愛し方は人それぞれ」
この言葉だけに留められるほど、君達は愛し合っているように思う
これだけで助言は十分だろう。
END
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